相続登記が義務化される背景


全国で所有者不明の土地問題が急増しています。平成28年度の国土交通省の地籍調査によると、日本全土の土地のうち、20%ほどの土地が不動産登記簿上で所有者がわからないという調査結果が出ています。

所有者不明の土地は、公共事業や災害復旧の工事、民間取引の大きな妨げとなっています。また、高齢化が進む現在の状況から、このままでは所有者不明土地がますます増えていくことが懸念されています。

このような状況を改善するために相続登記が義務化されることになります。

参考URL
所有者不明土地を取り巻く 状況と課題について | 国土交通省

所有者不明の土地が増えてしまった要因として、相続登記が義務ではなかった点があげられます。相続登記をするには登録免許税という法務局に支払う税金、司法書士や弁護士へ依頼すれば、報酬などで数万円単位の費用が必要となります。また相続人全員の同意を得る必要や、面倒な手続きも必要です。

価値が高い土地であれば相続登記せずに放置されることは少ないですが、価値が低いと思われているような土地や田・畑などでは、相続登記せずにそのまま放置されているということも少なくありません。

所有者不明土地の問題点


所有者不明土地の増加への対策として行われる相続登記の義務化ですが、所有者不明土地にはどのような問題点があるのでしょうか。

土地が活用できない


所有者不明の状態では、土地の売買ができません。

公共事業や民間事業などでその土地を利用したいと思っていても、所有者不明のままでは土地を購入することができません。購入するためには所有者を探す必要がありますが、探索には多くの時間と費用を要します。

土地が管理されない


所有者不明の土地は管理されず放置されてしまうことが多いです。その土地だけだはなく、隣接する土地など周辺への悪影響も発生します。

どのように義務化されるのか

相続登記


相続人が土地の取得を知ってから3年以内に登記を申請しなければなりません。違反すると10万円以下の過料に処されます。

所有者不明土地の多くは、山林など価値が低いと思われ、手間や費用をかけてまで手続きする必要がないと思われている土地です。遺産分割の協議が必要な場合、誰が土地を相続するのか、関係者間でしっかりとした話し合いが必要になると思われます。

住所変更登記


土地の所有者の氏名または住所に変更があった場合は、その日から2年以内に登記を申請しなければなりません。違反すると5万円以下の過料に処されます。

義務化後は、引越しなどで住所が変わった際に忘れずに登記申請を行わなければなりません。そもそも住所変更の際に登記が必要だということを把握していないケースもありますので、登記が必要なことをしっかりと認識しておく必要があります。

相続登記を行わないことのデメリット


法改正によって今後は義務化される相続登記ですが、相続登記をしていない土地はなるべく早く相続登記を行うのがいいと考えています。それは、以下のようなことが発生する可能性があるからです。

数次相続により相続関係が複雑になる


相続の手続が完了する前に、次の相続が発生してしまうことを「数次相続」と言います。

相続登記を行わずに放置しておくと、数次相続が発生してしまい、相続人の中に会ったこともない人が出てくることも珍しくありません。相続人である以上、不動産の名義を変更する際にはご協力して頂く必要があります。相続人の中に疎遠の方がいる場合、手続きが長期化してしまうケースもあります。

以下のようなケースで考えてみましょう。

  • 父(亡くなっている)名義の家に、母と長男家族が住んでいる
  • 父が亡くなった後に、次男が亡くなった


相続関係図1

父が亡くなった際に、家の相続登記を行っていなかった為に、次男が亡くなった際に、数次相続が発生しています。

家の老朽化が進み、長男が銀行より借り入れをして新しく家を立て替えようとしますが、相続登記が必要だと言われてしまいます。

もし、父が亡くなった直後に相続登記を行っていれば、相続人は、母、長男、次男、長女の4名、実の親子なので相続の手続きは比較的簡単に行えたはずです。

しかし、相続登記を行っていない状態で、次男が亡くなってしまったので、次男の妻、次男の子(2名)も相続人となります。このようなケースでは、次男の家族と疎遠になっているケースも多く、手続きが長期化することがあります。

相続関係図2

認知症などで遺産分割協議に支障が出る


遺産分割協議を行うには、意思能力・判断能力が必要です。認知症などの影響で、意思能力・判断能力が衰えてしまっている場合、家庭裁判所に成年後見人を選任してもらう必要があります。

前述した例の場合、父が亡くなった直後は何も問題なかった母が、数年経って認知症を患ってしまうと、遺産分割協議を行う際に成年後見人をつける必要が発生してしまいます。

まとめ


  • 不動産登記簿で所有者が不明となっている土地が多く存在している
  • 所有者不明土地の解消のため、相続登記・住所変更登記が義務化される
  • 相続登記は3年以内に登記申請、怠った場合は10万円以下の過料
  • 住所変更登記は2年以内に登記申請、怠った場合は5万円以下の過料
  • 相続登記を放置すると、過料以外にも、数次相続が発生するなどのデメリットがある


今回の記事では相続登記の義務化について解説しました。相続登記を行っていない心当たりがある場合、早めに対策を検討した方がよいケースもあるかもしれません。舞鶴中央司法書士事務所では、登記の申請だけではなく、相続全般のご相談を承っております。初回相談は無料で行っておりますので、相続に関して少しでも不安なところがあればお気軽にご相談ください。