抵当権とは
抵当権は、民法の第369条に以下のように記載されています。
「抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。」
住宅ローンを借りた人(債務者)がお金を返せなくなった場合、お金を貸した金融機関は、ローンを回収できなくなり困ってしまいます。金融機関は、家や建物に抵当権を設定することで、返済が滞った場合の回収手段を確保します。もし、返済が滞ってしまった場合、担保にした家や建物を競売にかけて物件を売却し、売却金は住宅ローンの返済に充てられます。
住宅ローンを組む際は、金融機関から抵当権の設定を求められます。抵当権の設定は司法書士などの専門家に依頼するのが一般的です。家を購入する際の諸費用に、抵当権設定に必要な司法書士報酬や、登録免許税などの項目が含まれていると思います。
抵当権は登記簿に記録されます。不動産の登記簿を見れば、その不動産に対して、誰がどのような権利を持っているのかを確認することができます。
※抵当権を設定しない無担保ローンも存在します。
ローンを完済しても登記簿から抵当権の記載は削除されない
住宅ローンを完済すれば、抵当権の効力は無くなります。しかし、登記簿から抵当権に関する記載が自動的に削除されるわけではありません。登記簿から抹消するには、抵当権抹消登記という登記申請を行う必要があります。
抵当権抹消登記は、専門家に依頼することもできますし、自分で登記することもできます。登記には、ローン完済時に銀行から送られてくる抵当権抹消に必要な各種書類が必要となります。
なぜ、効力の切れた抵当権は登記簿から削除した方がいいのか
登記簿に記載されていても効力が無いのであれば、そのままにしておいてもいいのではないかと思う人もいるかもしれません。しかし、効力の無い抵当権を残したままにしておくと、以下のようなケースで障害となることがあります。
書類の紛失に注意
まず、抵当権抹消登記には、住宅ローン完済時に金融機関から送られてくる書類が必要になります。ローン完済時に抵当権抹消の手続きを行わず放置していた場合、これらの必要書類を紛失するケースが多くあります。
後々、抵当権抹消の手続きを行う必要が発生した際、書類の再発行を金融機関に依頼する必要があり、手続きに余計な手間がかかってしまいます。
売却するとき
家や建物を売却するとき、原則、抵当権は外す必要があります。例え、「ローンの返済は終わっていて、抵当権の効力は無い」と説明しても、信頼性がありません。買主側からすると、抵当権の効力の有無が確認できないからです。また、抵当権がある不動産の場合、買主がローンを組むのが難しくなります。このような理由で抵当権付きの不動産を購入する人はほとんどいません。
不動産を担保に新たな融資を受けるとき
例え効力が無くなっていても、登記簿に抵当権が記載されている不動産を担保に新たな融資を受けるのは難しくなります。抵当権抹消登記を行った後に融資の依頼をする必要があります。前述したように、必要書類を紛失していた場合、金融機関へ再発行を依頼することになります。急ぎで融資してもらいたいのに、抵当権抹消登記に時間がかかり、必要なときに融資してもらえないということが発生します。
抵当権抹消の流れ
抵当権抹消登記は、司法書士などの専門家に依頼することもできますし、自分で行うこともできます。
銀行から書類を受け取る
住宅ローンの返済が終わると、金融機関から抵当権抹消に関する各種書類が発行されます。
・登記済証または登記識別情報
登記済証は、不動産に抵当権を設定した際に、債権者に発行される書類です。不動産登記法の改正により、2005年3月7日以降は、登記済証に変わって、登記識別情報という英数字からなるパスワードのようなものが通知されるようになりました。
・登記原因証明情報
住宅ローンの返済が完了したことを知らせる書類です。
・委任状
抵当権抹消登記は、債務者(お金を借りた人)と、債権者(お金を貸した金融機関)の2者で申請します。債権者が債務者や司法書士に抵当権抹消登記の手続きを委任するために、委任状は必要となります。
・登記事項証明書(登記簿)
ローンを借りた金融機関の登記事項証明書です。抵当権抹消登記を申請する場合、発行から3ヶ月以内のものが必要です。
※現在は登記事項証明書の添付を省略することも可能となりました。
抵当権抹消登記の申請をする
金融機関から発行された書類をそのまま法務局に持っていっても登記手続きは行えません。「抵当権設定登記申請書」に必要事項を記載した上で、収入印紙(不動産1個につき1,000円)を貼って、法務局に抵当権抹消登記の申請を行います。
参考: 15)抵当権抹消登記申請書
http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/minji79.html
登記の完了を待つ
抵当権抹消登記は、即日手続きが完了するものではありません。法務局で書類に不備がないかどうか調査を行い、問題なければ、登記簿に記載を行います。大体、一週間程度の時間が必要になります。
抵当権抹消の前に、別の手続きが必要になるケース
状況によっては、抵当権抹消登記の前に、別の手続きが必要となる場合もあります。
登記簿に記載されている住所から引っ越しているとき
法務局は、登記簿上の記載と、登記申請時に提出された書類をもとに手続きを進めていきます。登記簿上の住所と、登記申請書に記載されている住所が異なると、手続きを進めることができません。その際には、登記簿上の住所を現在の住所に変更する手続きが必要になります。
登記簿上の住所から、現在の住所までのお引越しの履歴が分かる住民票や戸籍の附票を取得して、変更の手続きを行う必要があります。
団体信用生命保険によってローンを完済したとき
住宅ローンを組む場合、団信(団体信用生命保険)に加入される方が多いと思います。団信は、万が一、債務者が死亡したり、高度障害状態になったりした場合に、残っている住宅ローンが保険から支払われる制度です。
債務者がお亡くなりになられて、団信を利用して住宅ローンを完済したときは、抵当権の抹消手続きの前に、相続登記を行う必要があります。
抵当権を抹消するには、登記簿上の所有者の方と、担保をつけている金融機関が申請人となって行います。
したがって、お亡くなりになった方は、登記申請手続きはできないので、相続登記を行って、登記簿上の所有者を変更する必要があります。
まとめ
- 抵当権とは、住宅ローンの返済が滞った場合に備えて、金融機関が家や建物を担保として押さえておく権利
- 住宅ローンの返済が終わると、抵当権の効力は無くなるが、登記簿からは削除されない
- 抵当権がついたままの不動産は、売却が困難になる
- 抵当権がついたままの不動産は、新たな融資を受ける際の担保にしにくくなる
- 抵当権抹消登記は、「抵当権抹消登記申請書」と、ローン完済時に金融機関から送られてる各種書類を法務局に提出して行う
- 登記簿の住所が現住所と違う場合は、抵当権抹消の前に、住所変更の手続きが必要となる
- 債務者死亡により、団信でローンを完済した場合は、抵当権抹消の前に、相続登記が必要となる
抵当権抹消登記をしなかったからといって、罰則があるわけではありません。今後、不動産の売買や融資を受ける予定もないので、そのままでいいやと思う方も多いかもしれません。しかし、不動産は相続の対象になることがほとんどです。相続人が不動産を売却したい際に、抵当権の記載が残っていれば、抵当権抹消登記から行わなければなりません。その際は登記に必要な書類が見つからないことが多いでしょう。
抵当権抹消登記は自分で行えばかかる費用は実費の数千円程度です。司法書士に依頼しても多額の報酬が発生する手続きでもありません。当事務所では12,000円から承っております。住宅ローンを完済してスッキリした気持ちで、登記簿もついでにキレイにしておくのがいいのではないかと思います。
※記事内ではみなさまに馴染みのあるであろう「登記簿」という言葉を利用していますが、正式には「登記事項証明書」といいます。